スマートフォンの普及に伴い、親指を使ったスクロール、文字入力、フリック入力、Web閲覧、SNS操作、ゲーム、動画操作など、母指を長時間反復して使用する機会が増えています。
近年の系統的レビューでは、モバイル端末の使用と手・手関節の筋骨格系障害との関連が検討され、ドケルバン病(de Quervain tenosynovitis)、手根管症候群、腱炎などが報告されています。2026年に発表された系統的レビューでは、588件の文献から42研究、6万7,000人超を対象として、モバイル端末使用と手・手関節病変の関連を検討し、特に高頻度使用者では手部障害への注意が必要とされています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
ドケルバン病は、親指側の手首に存在する第1背側伸筋腱区画において、**長母指外転筋(APL)と短母指伸筋(EPB)**の腱・腱鞘に負担が集中する狭窄性腱鞘炎です。親指を動かしたり、物を握ったり、手首を動かしたりすると、親指側の手首に痛みや腫れが出ることがあります。日本整形外科学会は、手の使いすぎ、スポーツ、指をよく使う仕事に加えて、妊娠・出産期や更年期の女性に多いことを説明しています。(joa.or.jp)
本記事で扱う「母指CM関節ストレッチ」は、ドケルバン病の病変そのものが母指CM関節に存在するという意味ではありません。母指CM関節は親指の付け根にある重要な関節であり、スマートフォン操作時の母指の外転・屈曲・対立運動に関与します。そのため、母指の可動性を確保し、母指・手関節・前腕へ偏った負荷が集中しないようにするためのコンディショニングとして考えることが重要です。
さらに、ドケルバン病の予防では、ストレッチだけに依存するのではなく、
- スマートフォン操作時間
- スクロール方法
- 片手操作
- 親指の反復運動
- 手首の固定姿勢
- 前腕筋群の緊張
- 休憩頻度
- スマートフォンの持ち方
- 手指への局所負荷
を総合的に見直す必要があります。
- 1.ドケルバン病とは?スマホのスクロールでなぜ親指側の手首が痛くなるのか
- 2.第1背側コンパートメントの解剖学
- 3.なぜスマホのスクロールがドケルバン病の負担になり得るのか
- 4.スマホ使用とドケルバン病の最新研究
- 5.母指CM関節とは?ドケルバン病との違い
- 6.スマホ操作で負担が集中する親指の運動
- 7.「ストレッチをすれば予防できる」は正しいのか
- 8.ドケルバン病予防の基本「母指を休ませる」
- 9.安全な母指CM関節周囲ストレッチ
- 10.フィンケルシュタインテストを自己流で繰り返さない
- 11.前腕ストレッチも重要
- 12.ストレッチより「握り方」を変える
- 13.スマホのフリック入力とドケルバン病
- 14.動画・SNS・ゲームによる長時間スマホ使用
- 15.更年期女性とドケルバン病
- 16.母指CM関節症とドケルバン病を見分けるポイント
- 17.ドケルバン病の予防で「筋力トレーニング」は必要か
- 18.ドケルバン病が疑われる場合はストレッチより安静を優先
- 19.当院で考える母指・手関節の評価
- 20.骨格矯正をベースにした根本アプローチ
- 21.筋膜リリース・整体施術の位置付け
- 22.鍼灸・円皮鍼を用いた低刺激アプローチ
- 23.EMS治療はドケルバン病予防に必要か
- 24.スマホ操作による手首負担を減らす具体的方法
- 25.「親指ストレッチ」と「母指CM関節症の運動療法」を区別する
- 26.ドケルバン病のセルフチェックで確認するポイント
- 27.医療機関を優先すべき症状
- 28.高槻市・茨木市でスマホ・PCを長時間使用する方へ
- 29.更年期の女性・育児中の女性は特に負荷管理が重要
- 30.当院での予防・改善サポート
- 31.骨盤・姿勢まで見る理由
- 32.強い刺激が苦手な方には円皮鍼を選択肢として検討
- 33.よくある質問(FAQ)
- 34.まとめ|ドケルバン病予防の本質は「母指を伸ばす」ことより「反復負荷を減らす」こと
1.ドケルバン病とは?スマホのスクロールでなぜ親指側の手首が痛くなるのか
ドケルバン病の医学的定義
ドケルバン病は「狭窄性腱鞘炎」と呼ばれる手外科領域の疾患です。
日本整形外科学会では、手関節の背側第1コンパートメントを通る、
- 長母指外転筋腱(APL)
- 短母指伸筋腱(EPB)
に生じる腱鞘炎として説明されています。(joa.or.jp)
この2本の腱は、親指を広げる、伸ばすなどの運動に関与します。
痛みが出る部位
典型的には、
手首の親指側
です。
具体的には、
- 橈骨茎状突起周囲
- 手首の親指側
- 母指側の手関節背側
に圧痛や腫脹が出ることがあります。
親指を開いたり、スマートフォンを持ったり、ペットボトルを握ったり、子どもを抱えたりする動作で症状が強くなることがあります。(joa.or.jp)
2.第1背側コンパートメントの解剖学
APL:長母指外転筋
長母指外転筋は主として親指を外側へ広げる働きを持ちます。
スマートフォンを片手で持ちながら親指を外転させ、画面を大きく移動させる動作では、この腱を繰り返し使用します。
EPB:短母指伸筋
短母指伸筋は親指の伸展に関与する腱です。
特に第1背側コンパートメント内でAPLとともに走行します。
腱鞘という「トンネル」
腱は手関節周囲の狭い構造を通過します。
ドケルバン病では、繰り返し負荷によって腱鞘の肥厚、腱周囲組織の変化などが生じ、腱の滑走が阻害されます。
日本整形外科学会も、使いすぎによる負荷から腱鞘が肥厚したり腱表面が傷んだりし、刺激の悪循環によって症状が進行すると説明しています。(joa.or.jp)
3.なぜスマホのスクロールがドケルバン病の負担になり得るのか
スマートフォン操作では、母指が非常に多く使われます。
典型的な片手操作では、
スマートフォンを手掌で保持
↓
母指を外側へ開く
↓
画面上で反復スクロール
↓
細かな屈曲・伸展・外転
↓
APL・EPBへ反復負荷
という動作になります。
さらに、
- 小さな画面
- 片手操作
- 長時間操作
- 高頻度スクロール
- フリック入力
- ゲーム
- 親指だけでの操作
などが重なると、局所的な反復負荷が増えます。
2020年のレビューでは、テキスト入力回数とドケルバン病との間に関連が報告され、インターネット閲覧やモバイルゲームについても関連が報告されています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
ただし、これは「スマートフォンを使えば必ずドケルバン病になる」という意味ではありません。
4.スマホ使用とドケルバン病の最新研究
2026年の系統的レビューでは、スマートフォンなどのモバイル端末使用と手・手関節の病変について42研究、6万7,000人超を対象に検討されています。
そのレビューでは、
- ドケルバン病
- 手根管症候群
- 腱炎
- ばね指
などが報告対象となり、モバイル端末使用量の増加と手・手関節病変との関連が総じて示されました。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
一方で、多くの研究は観察研究であり、
スマートフォン使用量が増えたこと自体がドケルバン病の直接原因である
と完全に証明されたわけではありません。
したがって、医学的には、
高頻度・反復的な母指使用が手関節周囲への累積負荷要因となる可能性がある
という表現が適切です。
5.母指CM関節とは?ドケルバン病との違い
母指CM関節
母指CM関節は、親指の付け根にある、
第1中手骨と大菱形骨
で形成される関節です。
親指はこの関節によって、
- 外転
- 内転
- 屈曲
- 伸展
- 対立
など複雑な運動を行います。
母指CM関節症では、この関節に変形性関節症が生じます。
日本整形外科学会では、母指CM関節症で親指を捻る動作に強い痛みが出ること、X線で関節裂隙狭小化、骨棘、場合によっては亜脱臼が認められることを説明しています。(joa.or.jp)
ドケルバン病との違い
| 比較項目 | ドケルバン病 | 母指CM関節症 |
|---|---|---|
| 主病変 | 腱・腱鞘 | 関節 |
| 主な部位 | 手首の親指側 | 親指の付け根 |
| 主な組織 | APL・EPB | 第1中手骨・大菱形骨 |
| 主症状 | 手首の親指側の痛み | 親指付け根の痛み |
| 典型的負荷 | 親指反復運動・手首動作 | つまみ、ひねり、握り |
| X線 | 必ずしも特徴的ではない | 関節裂隙狭小化、骨棘等 |
| ストレッチ | 痛みを誘発しない範囲で検討 | 症状に応じた運動療法 |
| 装具 | 手首・母指を固定する場合あり | CM関節保護装具など |
つまり、今回のテーマで「母指CM関節ストレッチ」を紹介する場合でも、ドケルバン病の病変部位そのものがCM関節ではないことを明示する必要があります。
6.スマホ操作で負担が集中する親指の運動
母指には他の指とは異なる特徴があります。
母指外転
親指を手掌から離す動作です。
APLが関与します。
母指伸展
親指を伸ばす動作です。
EPBなどが関与します。
母指対立
親指を他の指の方向へ持っていく動作です。
スマートフォン操作では、これらの動作が複雑に組み合わされます。
手関節の偏位
スマートフォンを片手で持つと、
- 手関節橈屈
- 手関節尺屈
- 軽度屈曲
- 軽度伸展
などが組み合わさることがあります。
この状態で親指を反復操作すると、母指と手関節の複合運動によって第1背側コンパートメントに負荷が集中する可能性があります。
7.「ストレッチをすれば予防できる」は正しいのか
結論として、ストレッチだけでドケルバン病を確実に予防できるという根拠はありません。
ドケルバン病の治療・管理では、
- 活動の調整
- 装具
- 鎮痛・抗炎症薬
- 腱鞘内ステロイド注射
- 必要に応じた手術
などが検討されます。(joa.or.jp; orthoinfo.aaos.org)
また、2023年のランダム化実行可能性試験では、装具・教育・可動域運動に加えて、母指伸展の等尺性運動を行う多面的介入が検討され、4週間の運動期間中に痛みと機能が改善しました。ただし、これは実行可能性試験であり、運動の最適な負荷量を確定する十分な規模の研究ではありません。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
したがって、予防では、
ストレッチ+操作環境改善+休憩+負荷管理
という複合的な方法が重要です。
8.ドケルバン病予防の基本「母指を休ませる」
スマートフォンを長時間操作する人にとって最初に考えるべきなのは、ストレッチよりも負荷管理です。
片手連続操作を減らす
長時間の片手スクロールを避け、
- 両手操作
- スタンド使用
- 音声入力
- 人差し指操作
などへ分散します。
スクロールを連続させない
長時間連続して画面を操作するのではなく、一定時間ごとに手を休ませます。
親指だけに負荷を集中させない
入力方法を変えることで、母指の反復運動を減らします。
9.安全な母指CM関節周囲ストレッチ
基本的な考え方
ドケルバン病の予防目的で母指を動かす場合、痛みを強く誘発する方向へ無理に伸ばさないことが重要です。
特に、すでに親指側手首へ痛みがある場合、
「伸ばせば柔らかくなる」
と考えて強くストレッチすると、腱・腱鞘への負荷を増やす可能性があります。
ストレッチ① 母指の軽い外転
- 手をリラックスさせる。
- 手掌を上に向ける。
- 親指を人差し指からゆっくり離す。
- 痛みが出ない範囲で数秒保持する。
- ゆっくり戻す。
ここで重要なのは、最大可動域まで無理に動かすことではありません。
ストレッチ② 母指対立運動
- 親指の先を小指方向へゆっくり移動。
- 手掌を横断するように動かす。
- 痛みが出ない範囲で戻す。
- 数回繰り返す。
ストレッチ③ 手関節の軽い運動
手関節を、
- 屈曲
- 伸展
- 橈屈
- 尺屈
方向へゆっくり動かします。
ただし、ドケルバン病で親指側手首に痛みがある場合、特に母指を折り込んだ状態で手首を強く尺屈させる動作は症状を誘発しやすいため、予防運動として積極的に行わない方が安全です。
10.フィンケルシュタインテストを自己流で繰り返さない
ドケルバン病の評価では、フィンケルシュタインテストやその変法が利用されます。
日本整形外科学会でも、母指を小指側へ牽引・移動させた際に疼痛が強くなることを診断の参考にしています。(joa.or.jp)
しかし、
自分で何度も強く痛みを出して確認する
という使い方は適切ではありません。
すでに腱・腱鞘に刺激がある場合には、症状を悪化させる可能性があります。
「テストで痛かったからドケルバン病」
「テストが陰性だから絶対に違う」
と自己診断することも避ける必要があります。
11.前腕ストレッチも重要
母指を動かす筋肉の多くは前腕に存在します。
そのため、
指・母指
だけではなく、
前腕屈筋群・伸筋群
まで確認します。
前腕伸筋群
手関節や指の伸展に関係します。
前腕屈筋群
手関節や指の屈曲、握り込みなどに関係します。
スマートフォンを強く握りながら親指を反復操作すると、前腕全体の筋緊張が高くなることがあります。
したがって、手首だけを強く伸ばすのではなく、前腕の緊張を軽く動かしていくことが重要です。
12.ストレッチより「握り方」を変える
スマートフォンの持ち方は重要です。
負担が集中しやすい持ち方
- 片手で強く握る
- 小指でスマホを支える
- 親指を常に最大外転
- 手首を固定
- 親指だけで広い範囲をスクロール
負荷を分散しやすい方法
- 両手で持つ
- スマホスタンドを使う
- 画面を下げすぎない
- 音声入力を使う
- 人差し指を使う
- 短時間ごとに持ち替える
重要なのは、
親指にかかる反復負荷の総量を減らすこと
です。
13.スマホのフリック入力とドケルバン病
フリック入力では親指を、
- 上
- 下
- 左
- 右
へ高速に動かします。
これに、
- 長時間操作
- 片手持ち
- 手首固定
- 強い握り
が加わると、母指・手関節への反復負荷が増える可能性があります。
2020年のレビューでは、テキストメッセージ頻度とドケルバン病との関連が検討され、より高頻度のメッセージ利用者でオッズ比が高くなる傾向が報告されています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
ただし、この研究も関連性を示すものであり、フリック入力そのものが病気を直接発症させると断定するものではありません。
14.動画・SNS・ゲームによる長時間スマホ使用
スマートフォン利用は、
- SNS
- 動画
- Web閲覧
- ゲーム
- ネットショッピング
- メッセージ
- 電子書籍
など多岐にわたります。
2020年のレビューでは、インターネット閲覧やモバイルゲームについてもドケルバン病との関連が報告されています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
さらに2026年の系統的レビューでは、モバイル端末関連の手・手関節病変としてドケルバン病が複数研究で取り上げられています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
そのため「仕事でスマホを使う人」だけが対象ではありません。
15.更年期女性とドケルバン病
ドケルバン病は、
- 妊娠・出産期
- 更年期
の女性にも多いとされています。(joa.or.jp)
そのため、
更年期+スマホ+家事+PC作業
と複数の負荷が重なる場合には、母指への負担を管理することが特に重要です。
また、手指の症状をすべて「腱鞘炎」と考えるのではなく、
- 母指CM関節症
- ばね指
- 手根管症候群
- 関節リウマチ
- 腱損傷
などを鑑別する必要があります。
16.母指CM関節症とドケルバン病を見分けるポイント
ドケルバン病
主に、
手首の親指側
が痛みます。
親指を動かした際に橈骨茎状突起周辺の疼痛が出やすくなります。(joa.or.jp)
母指CM関節症
主に、
親指の付け根
に痛みがあります。
「瓶の蓋を開ける」「ペットボトルをひねる」「物を強くつまむ」など、母指に力を入れる動作で痛みが出ることがあります。
X線では関節裂隙狭小化、骨棘、亜脱臼などが確認される場合があります。(joa.or.jp)
17.ドケルバン病の予防で「筋力トレーニング」は必要か
予防目的ですべての人が高負荷の母指トレーニングを行う必要はありません。
症状のない段階では、
- 可動域
- 筋持久力
- 手指の使い方
- 前腕の柔軟性
- 操作負荷
をバランス良く管理することが重要です。
すでに痛みがある場合には、負荷を上げるより、まず症状を悪化させる動作を減らします。
2023年の小規模なランダム化実行可能性試験では、ドケルバン病に対する母指伸展等尺性運動が装具・教育・可動域運動を含む多面的介入の一部として安全に実施可能でしたが、最適な運動強度を決定するにはより大規模な試験が必要とされています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
18.ドケルバン病が疑われる場合はストレッチより安静を優先
日本整形外科学会では、ドケルバン病に対して、
- 局所安静
- シーネ固定
- 投薬
- 腱鞘内ステロイド注射
などの保存的治療が行われ、改善しない場合や再発を繰り返す場合には手術が検討されると説明しています。(joa.or.jp)
AAOSでも活動調整、装具、NSAIDs、必要に応じたステロイド注射が保存的治療として挙げられています。重症または保存療法で改善しない場合には手術が検討されます。(orthoinfo.aaos.org)
したがって、
痛みが出ているのに強く伸ばす
というセルフケアは避けるべきです。
19.当院で考える母指・手関節の評価
茨木あゆみ鍼灸整骨院では、12年以上の臨床経験を基礎として、母指の痛みを「親指だけの問題」として評価するのではなく、
母指 → 手関節 → 前腕 → 肘 → 肩甲帯
まで含めた上肢の運動連鎖を確認します。
評価項目として、
- 母指可動域
- 手関節可動域
- 前腕回内・回外
- 前腕屈筋群
- 前腕伸筋群
- 握り動作
- ピンチ動作
- スマートフォン操作
- デスクワーク
- 家事
- 育児
- 趣味
などを確認します。
目的は「歪みを探す」だけではなく、
どの動作で負荷が集中しているのか
を確認することです。
20.骨格矯正をベースにした根本アプローチ
当院では、無理な姿勢矯正を強要せず、「骨格矯正をベースにした根本アプローチ」で痛まない身体づくりをサポートします。
ただし、ドケルバン病の原因を「骨格の歪みだけ」と考えるわけではありません。
手・手関節の症状では、
- 肩甲帯
- 肘
- 前腕
- 手関節
- 母指
の運動連鎖を確認し、局所への反復負荷がどのように生じているかを考えます。
例えば、肩や肘が動きにくいことで手首・母指だけに操作負荷が集中する場合には、上肢全体の可動性を確認します。
21.筋膜リリース・整体施術の位置付け
手関節痛がある場合でも、前腕筋群の過緊張を伴うケースがあります。
その場合には、
- 前腕伸筋群
- 前腕屈筋群
- 肘周囲
- 上腕
- 肩甲帯
まで確認します。
必要に応じて筋膜リリースや整体施術を組み合わせます。
ただし、腱鞘の狭窄を手技だけで物理的に解除するという意味ではありません。
症状、圧痛、腫脹、可動域などを確認し、手関節・母指へ集中している負荷を調整することを目的とします。
22.鍼灸・円皮鍼を用いた低刺激アプローチ
強い刺激が苦手な方には、鍼灸という選択肢もあります。
当院では、比較的刺激の少ない**円皮鍼(えんぴしん)**を用いた血流改善を目的とするアプローチを優先的に提案する場合があります。
円皮鍼は貼付型の鍼で、通常の長い鍼を深く刺入する方法とは異なります。
そのため、
- 強い刺激が苦手
- 鍼が怖い
- 低刺激の施術を希望する
という方の選択肢になります。
ただし、
円皮鍼でドケルバン病が治る
円皮鍼によって腱鞘の狭窄が解除される
と断定するものではありません。
あくまで筋緊張や血流を含めた身体のコンディショニングを目的とする補助的なアプローチとして位置付けます。
23.EMS治療はドケルバン病予防に必要か
EMS治療は、電気刺激によって筋収縮を誘発する方法です。
ただし、ドケルバン病の主病変である第1背側コンパートメントの腱・腱鞘を直接治療するものではありません。
そのため、
EMSを行えばスマホによるドケルバン病を防げる
とは言えません。
必要に応じて、
- 肩甲帯の筋機能
- 上肢の筋活動
- 体幹機能
- 姿勢保持
などへの補助的なコンディショニングとして検討します。
24.スマホ操作による手首負担を減らす具体的方法
操作時間
連続操作時間を短くします。
操作方法
親指だけに依存せず、
- 人差し指
- 両手
- 音声入力
などを使います。
保持方法
片手で強く握り続けないようにします。
画面
大画面端末を片手で無理に操作しないようにします。
休憩
操作の間に手を開いて、母指・手関節をリラックスさせます。
痛みがある場合
痛みを我慢して操作量を維持するのではなく、操作時間を減らします。
25.「親指ストレッチ」と「母指CM関節症の運動療法」を区別する
母指CM関節症については、母指の固有感覚トレーニングや運動療法の研究があります。
2026年の多施設ランダム化比較試験では、母指CM関節症に対して装具と運動療法を組み合わせる方法が検討されています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
また、母指CM関節症に対して、固有感覚を意識した母指運動の補助効果を検討したRCTもあります。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
しかし、これは母指CM関節症の研究です。
ドケルバン病は、
APL・EPB+第1背側コンパートメント
の問題です。
したがって、
「母指CM関節症の運動療法で効果がある」
という研究結果を、そのまま
「ドケルバン病にも同じ効果がある」
と置き換えることはできません。
26.ドケルバン病のセルフチェックで確認するポイント
スマートフォン利用者では、
- 親指を動かすと手首の親指側が痛い
- 画面スクロール後に手首が痛む
- フリック入力後に痛みが強くなる
- ペットボトルを持つと痛い
- 子どもを抱くと痛い
- 手首の親指側に腫れがある
- 親指の付け根ではなく手首側が痛い
という場合にはドケルバン病を疑う材料になります。
一方、
- 親指の付け根が痛い
- 瓶の蓋を回すと痛い
- 強くつまむと痛む
- 変形がある
場合には母指CM関節症なども鑑別する必要があります。
27.医療機関を優先すべき症状
以下の場合はセルフストレッチだけで様子を見ず、整形外科や手外科などでの診察を検討します。
- 腫脹が強い
- 安静にしても痛い
- 夜間痛が強い
- 親指が動かしにくい
- 握力が低下している
- しびれがある
- 外傷後に発症した
- 何週間も症状が続く
- 日常生活に支障がある
- 親指の付け根が変形している
手のしびれや握力低下では、手根管症候群など神経障害の可能性もあります。
ドケルバン病だけに限定して考えないことが重要です。
28.高槻市・茨木市でスマホ・PCを長時間使用する方へ
高槻市・茨木市周辺で生活する方でも、
- 通勤中のスマートフォン操作
- 電車内でのSNS
- デスクワーク
- 在宅勤務
- 子どもの送迎
- 家事
- 育児
- ネットショッピング
- スマートフォンゲーム
など、母指を反復使用する場面があります。
特に、
仕事でパソコン
+
通勤中にスマートフォン
+
帰宅後にSNS・動画
という生活では、母指の使用時間が一日にわたり分散して蓄積します。
そのため、「1回の操作時間」だけではなく、1日の累積使用量を考えることが重要です。
29.更年期の女性・育児中の女性は特に負荷管理が重要
ドケルバン病は更年期女性や妊娠・出産期の女性にも多いとされています。(joa.or.jp)
例えば育児中では、
- 子どもを抱く
- 哺乳瓶を持つ
- ベビーカー操作
- 抱っこ紐
- おむつ交換
- 掃除
- スマートフォン操作
などが組み合わさります。
つまり、
スマホだけが原因
ではなく、
育児+家事+スマホ+手の反復使用
という累積負荷を考える必要があります。
30.当院での予防・改善サポート
茨木あゆみ鍼灸整骨院では、12年以上の臨床経験を基礎として、母指や手首の症状を局所だけではなく上肢全体から評価します。
評価
- 母指可動域
- 手関節可動域
- 前腕回内・回外
- 前腕筋緊張
- 肘関節
- 肩関節
- 肩甲帯
- スマートフォン操作
などを確認します。
施術
必要に応じて、
- 整体施術
- 筋膜リリース
- 骨格矯正
- 骨盤矯正
などを身体状態に合わせて検討します。
ただし、ドケルバン病の急性炎症や腱鞘の狭窄が疑われる場合は、無理な手技や強いストレッチを行うのではなく、医療機関での診断・治療を優先する場合があります。
31.骨盤・姿勢まで見る理由
一見すると、
「親指の痛みなのに骨盤を見るの?」
と考える方もいます。
しかし上肢は、
- 脊柱
- 肩甲帯
- 肩関節
- 肘
- 前腕
- 手関節
- 母指
という複数の関節・筋群が連携しています。
例えば長時間のデスクワークで、
骨盤・胸郭の姿勢変化
↓
肩甲帯の固定
↓
肘・前腕の位置変化
↓
手関節の固定
↓
母指への反復負荷
というような動作パターンが形成される可能性があります。
したがって、当院では局所の手首だけでなく、身体全体の運動パターンを確認します。
32.強い刺激が苦手な方には円皮鍼を選択肢として検討
当院では、強い刺激が苦手な方に対して、比較的刺激の少ない円皮鍼(えんぴしん)を用いた血流改善を目的とする鍼灸アプローチを優先的に提案する場合があります。
円皮鍼を使う場合も、
親指の痛みがあるから、とにかく痛いところへ刺激する
という考え方ではありません。
前腕、上肢、肩甲帯などを含めて身体状態を確認し、刺激量を抑えながらコンディショニングを行います。
ただし、円皮鍼でドケルバン病の腱鞘狭窄そのものを解除すると断定するものではありません。
33.よくある質問(FAQ)
Q1.スマホを触りすぎるとドケルバン病になりますか?
スマートフォンの高頻度使用は、母指・手関節への反復負荷の要因となる可能性があります。
2020年のレビューでは、テキストメッセージ、インターネット閲覧、モバイルゲームなどとドケルバン病との関連が報告されています。2026年の系統的レビューでも、モバイル端末使用に関連する手・手関節病変としてドケルバン病が複数研究で扱われています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov; pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
ただし、「スマホを使うと必ず発症する」という意味ではありません。
Q2.ドケルバン病の予防には母指CM関節ストレッチが有効ですか?
母指の可動性を維持することは身体機能の面では有用ですが、母指CM関節ストレッチだけでドケルバン病を予防できるという確立したエビデンスはありません。
ドケルバン病の予防では、スマートフォン操作量の調整、休憩、操作方法の変更、必要に応じた装具などを組み合わせることが重要です。(joa.or.jp)
Q3.親指を手のひらに入れて手首を小指側へ曲げるストレッチをしてもいいですか?
すでに親指側手首が痛い場合には、積極的に行わない方が安全です。
この姿勢はドケルバン病の疼痛を誘発する評価動作と類似しているため、強く繰り返すと症状を刺激する可能性があります。日本整形外科学会でも、母指を小指側へ動かすことで疼痛が強くなることを診断の参考にしています。(joa.or.jp)
Q4.母指の付け根が痛いのですが、ドケルバン病ですか?
必ずしもそうではありません。
ドケルバン病は主として手首の親指側が痛みます。一方、母指CM関節症では親指の付け根に痛みが出やすく、X線で関節裂隙狭小化、骨棘、亜脱臼などが認められる場合があります。(joa.or.jp; joa.or.jp)
Q5.強い刺激が苦手ですが、鍼灸で母指・手首のケアはできますか?
身体状態に応じて、鍼灸によるコンディショニングを検討する場合があります。
当院では、強い刺激が苦手な方に比較的刺激の少ない円皮鍼を用いた血流改善を目的とするアプローチを優先的に提案する場合があります。
ただし、強い腫れ、安静時痛、長期間続く痛み、しびれ、握力低下などがある場合には、まず整形外科や手外科などでの診察を優先します。
34.まとめ|ドケルバン病予防の本質は「母指を伸ばす」ことより「反復負荷を減らす」こと
スマートフォンを日常的に使用する現代では、母指を使った、
- スクロール
- フリック入力
- タップ
- ゲーム操作
- Web閲覧
- SNS
- 動画操作
などの反復運動が増えています。
ドケルバン病は、手関節の第1背側コンパートメントを通る**長母指外転筋腱(APL)と短母指伸筋腱(EPB)**の腱・腱鞘に生じる狭窄性腱鞘炎です。日本整形外科学会では、手の使いすぎやスポーツ、指をよく使う仕事だけでなく、妊娠・出産期や更年期の女性に多い疾患として説明されています。(joa.or.jp)
一方、母指CM関節は親指の付け根に存在する関節であり、母指CM関節症はドケルバン病とは異なる疾患です。母指CM関節症では、親指の付け根の疼痛、つまみ・ひねり動作時の痛み、X線上の関節裂隙狭小化、骨棘、亜脱臼などが問題となります。(joa.or.jp)
そのため、
「ドケルバン病=母指CM関節の炎症」
ではありません。
また、
「母指CM関節をストレッチすればドケルバン病を予防できる」
という単純な医学的根拠もありません。
2023年には、装具・教育・可動域運動を組み合わせた上で母指伸展の等尺性運動を行う研究が実施され、痛み・機能の改善が観察されましたが、あくまで実行可能性試験であり、ドケルバン病の予防に最適な運動方法を確定する研究ではありません。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
さらに2026年の系統的レビューでは、モバイル端末使用に関連する手・手関節の病変としてドケルバン病、手根管症候群、腱炎、ばね指などが検討され、高頻度利用者への人間工学的対策の重要性が示されています。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
したがって、スマートフォン利用者がドケルバン病を予防する場合の優先順位は、
①スマートフォン操作の累積時間を減らす
②片手・親指だけの反復操作を減らす
③両手操作や人差し指・音声入力へ分散する
④一定時間ごとに手・母指を休ませる
⑤痛みのない範囲で母指・手関節の可動域を維持する
という考え方になります。
すでに手首の親指側に痛みがある場合は、強いストレッチを行わないことが重要です。
特に、親指を手のひらへ強く折り込み、その状態で手首を小指側へ強く曲げるような動作は、ドケルバン病の疼痛を誘発する評価動作に近いため、自己流の反復テストや強いストレッチとして行うことは避けます。(joa.or.jp)
症状が進行し、
- 手首の親指側が腫れている
- 強い圧痛がある
- 親指を動かすと強く痛む
- 握力が低下した
- 日常生活に支障がある
- しびれがある
- 長期間改善しない
という状態であれば、整形外科や手外科での評価が重要です。
茨木あゆみ鍼灸整骨院では、12年以上の臨床経験を基礎として、母指や手関節だけではなく、前腕、肘、肩、肩甲帯まで含めて上肢の運動連鎖を確認します。
無理な姿勢矯正を強要せず、「骨格矯正をベースにした根本アプローチ」で、痛まない身体づくりをサポートします。
必要に応じて、整体施術、筋膜リリース、骨格矯正、骨盤矯正などを組み合わせ、スマートフォン操作、デスクワーク、家事、育児などによってどの部位へ負荷が集中しているのかを確認します。
また、強い刺激が苦手な方には、比較的刺激の少ない**円皮鍼(えんぴしん)**を用いた血流改善を目的とする鍼灸アプローチを優先的に提案する場合があります。
EMS治療についても、必要に応じて上肢だけではなく体幹・肩甲帯などの筋機能を補助するコンディショニングとして検討します。
重要なのは、
「痛みが出てから強く伸ばす」のではなく、「痛みが出る前から母指への反復負荷を管理する」
ことです。
高槻市・茨木市周辺で、スマートフォン操作、パソコン作業、家事、育児などによる母指・手首の負担、手首の親指側の痛み、母指の動かしにくさ、前腕の緊張などが気になる場合は、母指だけでなく上肢全体の動作と筋緊張を確認することが重要です。

