グロインペイン症候群(鼠径部痛)とは?股関節内転筋群・腸腰筋の協調運動障害と生体力学を徹底解説

「サッカーをすると鼠径部が痛くなる」

「脚を閉じると股関節の内側が痛い」

「走ると股の付け根が痛くなり、休むと軽くなる」

「キック動作や切り返しで鼠径部に鋭い痛みが出る」

「股関節を上げると鼠径部が詰まるように痛む」

このような症状は、スポーツ選手や運動習慣のある方に比較的多くみられる**グロインペイン(groin pain:鼠径部痛)**に該当する可能性があります。

グロインペインは、単一の疾患名ではありません。

鼠径部には、

  • 股関節
  • 内転筋群
  • 腸腰筋
  • 恥骨結合
  • 腹壁
  • 鼠径管
  • 腹直筋
  • 腰椎
  • 仙腸関節
  • 神経
  • 血管

など、多くの組織が近接しています。

そのため、同じ「鼠径部の痛み」でも原因は異なります。

スポーツ医学では、2015年のDoha agreementによって、アスリートの鼠径部痛を臨床所見に基づいて、

  1. 内転筋関連
  2. 腸腰筋関連
  3. 鼠径部関連
  4. 恥骨関連
  5. 股関節関連
  6. その他

などに分類する考え方が整理されました。これは診断名を乱立させるのではなく、病歴と身体診察によって症状の由来を整理することを目的としています。

したがって、

「鼠径部が痛いから内転筋が悪い」

と決めつけるのは適切ではありません。

一方で、内転筋群はアスリートのグロインペインで非常に重要な構造です。2026年に公表された大規模なスポーツ傷害データでも、股関節・鼠径部傷害の中で内転筋関連の障害が最も頻度の高い臨床カテゴリーとして報告されています。

本記事では、特に、

股関節内転筋群

と

腸腰筋

の協調運動に注目し、

股関節

骨盤

体幹

足部

まで含めたキネティックチェーンの観点から、グロインペインを詳しく解説します。


  1. 1. グロインペイン症候群に関する専門的概要
    1. 1-1. グロインペインとは何か
    2. 1-2. なぜ鼠径部は痛みの原因を特定しにくいのか
  2. 2-1. 内転筋群とは
  3. 2-2. 長内転筋
  4. 2-3. 内転筋は「安定化筋」として働く
  5. 3-1. 腸腰筋とは
  6. 3-2. 大腰筋と骨盤・腰椎
  7. 5-1. 正常な股関節・骨盤運動
  8. 5-2. 協調運動が崩れるとどうなるか
  9. 16-1. 股関節屈曲+内転
  10. 整形外科
  11. 整骨院
    1. 急性期
    2. 回復期
    3. 復帰期
    4. レベル1
    5. レベル2
    6. レベル3
    7. レベル4
    8. レベル5
    9. レベル6
  12. Q1. グロインペイン症候群とは何ですか?
  13. Q2. 鼠径部痛は内転筋が原因ですか?
  14. Q3. 腸腰筋が硬いと鼠径部が痛くなりますか?
  15. Q4. 内転筋を鍛えるとグロインペインは改善しますか?
  16. Q5. Copenhagen Adduction Exerciseは効果がありますか?
  17. Q6. Adductor squeeze testで痛かったら内転筋障害ですか?
  18. Q7. 鼠径部痛に骨盤矯正は効果がありますか?
  19. Q8. EMS治療で内転筋を鍛えれば治りますか?
  20. Q9. 鍼灸治療は鼠径部痛に使えますか?
  21. Q10. 筋膜リリースでグロインペインは治りますか?
  22. Q11. 股関節のインピンジメントでも鼠径部痛は出ますか?
  23. Q12. 鼠径部痛があるときにスポーツを完全に休むべきですか?
  24. Q13. 痛みがなくなればすぐ試合に復帰できますか?
  25. Q14. グロインペインは再発しますか?
  26. Q15. HAGOSとは何ですか?
  27. 調査した理由
  28. 調査した事実
  29. 本記事における考察
  30. 主な参考資料
      1. 長引く腰痛や肩こり、どこに行っても改善しないお身体の不調はお任せください

1. グロインペイン症候群に関する専門的概要

1-1. グロインペインとは何か

グロインペインとは、一般に鼠径部・恥骨周囲・股関節前方・内転筋近位部などに生じる痛みを指します。

重要なのは、「グロインペイン」という言葉自体が一つの病名ではないという点です。

スポーツ選手の鼠径部痛には、

  • 内転筋関連
  • 腸腰筋関連
  • 鼠径部関連
  • 恥骨関連
  • 大腿骨寛骨臼インピンジメント
  • 股関節唇損傷
  • 変形性股関節症
  • 腰椎由来疼痛
  • 仙腸関節由来疼痛
  • ヘルニア
  • 神経障害

などが含まれる可能性があります。

研究でも、アスリートの股関節・鼠径部痛は複数の病態が重複することがあり、診断が難しい領域とされています。


1-2. なぜ鼠径部は痛みの原因を特定しにくいのか

鼠径部には多くの組織が集中しています。

例えば、

内転筋群

腸腰筋

腹壁

恥骨結合

股関節

が非常に近い位置にあります。

さらに股関節は深部に存在するため、痛みがどの組織から発生しているかを触診だけで完全に判断できない場合があります。

股関節痛の評価では、まず関節内由来なのか関節外由来なのかを考え、病歴と包括的な身体診察を組み合わせることが重要とされています。


2. 股関節内転筋群の解剖学

2-1. 内転筋群とは

股関節内転筋群には主として、

  • 長内転筋
  • 短内転筋
  • 大内転筋
  • 恥骨筋
  • 薄筋

などがあります。

これらは大腿骨を身体の中心方向へ引き寄せる股関節内転に関与します。

しかし、内転筋群の役割は「脚を閉じる」だけではありません。

スポーツ動作では、

  • 骨盤の安定
  • 股関節の位置制御
  • 切り返し
  • キック
  • 片脚支持
  • 方向転換
  • 体幹と下肢の連結

などにも関係します。


2-2. 長内転筋

グロインペインを考える上で特に重要なのが、

長内転筋

です。

長内転筋の近位付着部は恥骨周辺に位置するため、反復的なキック、方向転換、内転筋収縮などによって負荷が集中することがあります。


2-3. 内転筋は「安定化筋」として働く

例えば片脚立位では、

骨盤

を水平に保つ必要があります。

このとき股関節周囲の筋群が協調して働きます。

つまり、

内転筋は単に脚を内側へ動かす筋ではなく、股関節と骨盤を安定させる筋としても重要

です。


3. 腸腰筋の解剖学

3-1. 腸腰筋とは

腸腰筋は、

大腰筋

腸骨筋

から構成される筋群です。

股関節屈曲の主要筋であり、

  • 脚を前へ振る
  • 階段を上る
  • 走る
  • キック
  • 腹臥位から脚を動かす

などに関与します。


3-2. 大腰筋と骨盤・腰椎

大腰筋は腰椎と大腿骨をつなぐため、

腰椎

骨盤

股関節

を橋渡しする筋です。

このため腸腰筋を考えるときには、

股関節の筋肉としてだけではなく、腰椎・骨盤と連結した体幹筋群の一部

として考える必要があります。


4. 内転筋と腸腰筋は拮抗筋なのか

内転筋と腸腰筋には異なる主動作があります。

内転筋

→ 股関節内転

腸腰筋

→ 股関節屈曲

しかし、実際のスポーツ動作ではこの2つを単純な「拮抗筋」と考えるだけでは不十分です。

例えば、

走る

という動作では、

股関節屈曲

と

骨盤安定化

が同時に必要になります。

またキックでは、

股関節屈曲

内転

回旋

が複合して発生します。

したがって重要なのは、

内転筋と腸腰筋がそれぞれ単独で強いかどうかではなく、動作中に適切なタイミングと強度で協調して働けるか

という点です。


5. グロインペインの生体力学的メカニズム

5-1. 正常な股関節・骨盤運動

正常なスポーツ動作では、

体幹

↓

骨盤

↓

股関節

↓

膝

↓

足関節

↓

足部

へ力が連続的に伝達されます。

この連続した運動連鎖を、

キネティックチェーン

と呼びます。


5-2. 協調運動が崩れるとどうなるか

例えば、

股関節周囲筋のタイミングがずれる

↓

骨盤が過剰に回旋

↓

内転筋に過剰な張力

↓

腱付着部への負荷増加

という状態が起こる可能性があります。

ただし、これは生体力学的な仮説モデルであり、すべてのグロインペインをこのメカニズムだけで説明することはできません。


6. 内転筋の遠心性収縮

スポーツでは内転筋が単純に短縮するだけではありません。

筋肉が伸ばされながら力を出す、

遠心性収縮

が重要です。

例えば、

方向転換

スライド

片脚着地

などでは、股関節内転方向への力を制御する必要があります。

この能力が不足すると、内転筋・腱への機械的ストレスが増加する可能性があります。


7. 急激なダッシュとグロインペイン

ダッシュでは、

股関節屈曲

↓

股関節伸展

↓

脚の振り戻し

が高速で行われます。

ここに、

加速

減速

方向転換

が加わると、股関節周囲筋に高い要求がかかります。


8. キック動作と内転筋

サッカーのキックでは、

股関節屈曲

内転

内旋・外旋

が組み合わさります。

そのため、

腸腰筋

内転筋群

腹筋群

骨盤周囲筋

の協調が重要です。


9. 内転筋力低下とグロインペイン

内転筋力低下は、スポーツにおけるグロインペインと関連する重要な要素です。

2016年の競技復帰に関するコンセンサスでは、股関節内転筋力の低下が内転筋損傷や鼠径部傷害と関連することが示され、競技復帰判断の一要素として内転筋力を測定することが提案されています。

ただし、

「内転筋が弱い=必ず鼠径部痛になる」

という意味ではありません。

筋力は、

柔軟性

過去の傷害

練習量

競技特性

年齢

など多くの要素の一つです。


10. 内転筋関連グロインペイン

Doha agreementでは、内転筋関連鼠径部痛は、

内転筋付着部の圧痛

と

抵抗下股関節内転での疼痛

などの臨床所見を中心に定義されます。

したがって、

「内転筋を押すと痛い」

だけではなく、

抵抗下内転

伸張

スポーツ動作

などの反応を総合します。


11. 腸腰筋関連グロインペイン

腸腰筋関連では、

股関節屈曲

や

腸腰筋周辺の圧痛

などが症状に関与することがあります。

例えば、

  • 膝を胸へ引き上げる
  • 階段
  • ダッシュ
  • キック
  • 方向転換

などで痛みが誘発される場合があります。

ただし、股関節前方痛はFAIなど股関節内病変でも起こるため、腸腰筋だけが原因とは限りません。


12. 恥骨関連グロインペイン

恥骨周辺の痛みでは、

恥骨結合

腹直筋

内転筋

などの力学的関係を評価する必要があります。

腹壁と内転筋の力が恥骨周辺で相互作用するため、スポーツ動作によって痛みが誘発されることがあります。


13. 鼠径部関連グロインペイン

鼠径部関連では、

腹壁

鼠径管

などを評価します。

ここでは内転筋だけを見ると診断を誤る可能性があります。

特に、

咳

くしゃみ

腹圧上昇

などで症状が出る場合には、筋骨格系以外の病態も含めて評価する必要があります。


14. 股関節関連グロインペイン

股関節由来では、

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)

関節唇損傷

変形性股関節症

などが考えられます。

FAIでは、

スクワット

深い股関節屈曲

切り返し

ピボット

などで深部鼠径部痛が誘発されることがあります。


15. FAIと内転筋障害が同時に存在することもある

グロインペインでは、

一つの原因だけ

とは限りません。

研究では複数の臨床カテゴリーが同時に存在するケースが確認されています。サッカー選手を対象とした研究では約24%が複数の臨床エンティティを有していました。

したがって、

「内転筋に圧痛があるから、股関節には問題がない」

とも言えません。


16. 腸腰筋と内転筋の協調運動

16-1. 股関節屈曲+内転

股関節を前へ上げながら身体の中心方向へ引く動作では、

腸腰筋

と

内転筋群

が同時に関与する可能性があります。

例えば、

  • 階段昇降
  • 走行
  • キック
  • 片脚立位
  • 跨ぐ動作

などです。


17. 骨盤の位置が重要な理由

骨盤には、

腸腰筋

内転筋群

腹筋群

殿筋群

が付着・連結しています。

そのため、

骨盤の前傾

後傾

回旋

が変化すると、股関節周囲筋の張力条件も変わる可能性があります。

ただし、

「骨盤の歪み=グロインペインの原因」

と断定する根拠はありません。


18. 骨盤前傾と腸腰筋

腸腰筋は腰椎・骨盤に関係するため、骨盤前傾が強い人では腸腰筋の筋長や活動パターンが変化する可能性があります。

しかし、姿勢だけで症状を診断することはできません。

重要なのは、

姿勢

+

動作

+

筋力

+

疼痛誘発

を組み合わせることです。


19. 内転筋と腹筋の協調

サッカーなどの多方向スポーツでは、

内転筋

と

腹筋・体幹筋

が骨盤を介して連動します。

そのため、

体幹が安定しない

と感じる患者では、内転筋だけでなく体幹機能も評価対象になります。


20. 「内転筋を鍛えるだけ」では不十分な理由

鼠径部痛のリハビリテーションでは、

内転筋

だけを鍛えればよいとは限りません。

必要に応じて、

  • 内転筋
  • 外転筋
  • 大殿筋
  • 腸腰筋
  • 腹筋
  • 体幹筋
  • 股関節回旋筋
  • ハムストリングス

などを総合的に考えます。


21. 腸腰筋を「硬い筋」とだけ考えない

腸腰筋は、

硬い

というだけで問題になる筋ではありません。

必要な場面でしっかり力を発揮することも重要です。

したがって、

腸腰筋を柔らかくすること=グロインペインの根本治療

ではありません。


22. グロインペインにおける柔軟性

股関節の、

内転

外転

屈曲

伸展

内旋

外旋

を確認します。

左右差があった場合でも、

左右差がある=異常

とは限りません。

競技特性や個人差を含めて評価します。


23. 股関節内旋可動域

FAIなど股関節内病変では、

股関節屈曲+内旋

で痛みが出ることがあります。

そのため、鼠径部痛を評価するときは、

内転筋だけでなく股関節そのもの

を見ることが重要です。


24. Adductor squeeze test

代表的な検査に、

Adductor squeeze test

があります。

膝の間に抵抗物を挟み、

内転筋で押す

ことで痛みや力を評価します。

しかし、研究ではこのテストは鼠径部痛を捉える感度が高い一方、特定の病変を区別する特異度は十分ではないことが示されています。

つまり、

陽性だから内転筋障害と確定する検査ではありません。


25. 抵抗下股関節屈曲

腸腰筋関連が疑われる場合には、

抵抗下股関節屈曲

で症状が再現するかを確認します。

ただし、股関節前方痛がある場合にはFAIなどの鑑別も必要です。


26. Palpationだけでは診断できない

触診によって、

長内転筋近位部

恥骨周辺

腸腰筋周辺

などの圧痛を確認できます。

しかし、

押して痛い=その組織が根本原因

とは限りません。

筋肉が痛みをかばって過緊張しているだけの場合もあります。


27. 痛みと機能の評価

現在のスポーツ医学では、

痛み

だけでなく、

スポーツ参加

日常生活

機能

競技パフォーマンス

を評価することが重要です。

グロインペイン・股関節の患者報告アウトカムとしては、**HAGOS(Copenhagen Hip and Groin Outcome Score)**が開発され、痛み、症状、日常機能、スポーツ機能、身体活動、QOLの6領域を評価できます。


28. スポーツ復帰をどう考えるか

競技復帰では、

痛みがない

だけでは十分ではありません。

例えば、

  • 最大内転筋力
  • 左右差
  • 片脚動作
  • ジャンプ
  • 加速
  • 減速
  • 切り返し
  • キック
  • 練習量への耐性

などを確認します。


29. 内転筋トレーニングの重要性

1999年のランダム化比較試験では、長期間続く内転筋関連鼠径部痛のアスリート68人を対象に、骨盤に作用する筋、とくに内転筋の筋力・協調性を改善する積極的トレーニングと、活動的トレーニングを含まない理学療法を比較しました。

8~12週間の介入後、4か月時点で痛みなく同レベルの競技へ復帰した人数は、積極的トレーニング群23人、比較群4人でした。

これは、

内転筋関連グロインペインでは、単に痛みを取るだけでなく、筋力・協調性の回復が重要

であることを示唆する重要な研究です。

ただし、1999年の研究であり、現在の競技環境やリハビリ方法をそのまま代表するものではありません。


30. 多面的な治療が必要な理由

2011年のランダム化比較試験では、長期間の内転筋関連鼠径部痛に対して、運動療法単独と、徒手療法・ストレッチ・ランニング復帰を組み合わせたマルチモーダルプログラムを比較しました。

マルチモーダル群の方が平均競技復帰期間は短かったものの、24週時点まで含めると完全復帰率は両群とも約50~55%にとどまり、すべての患者が容易に復帰できたわけではありません。

この研究からも、

一つの手技だけで解決する疾患ではない

ことが分かります。


31. Copenhagen Adduction Exercise

近年、内転筋強化では、

Copenhagen Adduction Exercise

がよく研究されています。

これは身体を側方へ支持しながら上側の脚を内転させる運動です。

内転筋に大きな力を要求できることから、

内転筋エキセントリック強度

の向上などを目的に使用されます。

2024年のランダム化比較研究でも、内転筋関連の鼠径部痛を有するサッカー選手に対してCopenhagen Adduction Exerciseを含むリハビリテーションが検討されています。


32. いきなり強いCopenhagenをしない

Copenhagen Adduction Exerciseは負荷が大きいため、

症状が強い時期

に無理に行う必要はありません。

例えば、

等尺性内転

↓

軽い両脚内転

↓

負荷を調整した片脚内転

↓

Copenhagen

という段階的な進行を考えることができます。


33. 等尺性内転

痛みがある場合には、

動かさずに内転筋を収縮させる

等尺性運動が利用されることがあります。

目的は、

筋収縮能力の維持・再獲得

と

負荷への慣れ

です。


34. 内転筋と外転筋のバランス

股関節の安定化には、

内転

だけではなく、

外転

も必要です。

中殿筋や小殿筋などの外転筋群も、

片脚支持

骨盤制御

に関与します。

そのため、

内転筋を強くするだけで骨盤が安定する

とは限りません。


35. 大殿筋との連動

大殿筋は股関節伸展・外旋などに関与します。

走行や切り返しでは、

殿筋群

内転筋

腸腰筋

が異なるタイミングで力を発揮します。


36. 体幹筋との協調

腹横筋や腹斜筋など体幹筋群は、

骨盤・胸郭

の安定化に関与します。

ただし、体幹の筋力が弱いからグロインペインになると単純化することはできません。


37. 足部からの影響

キネティックチェーンは足部から上方へもつながります。

例えば、

足部の荷重パターン

↓

下腿

↓

膝

↓

股関節

↓

骨盤

という変化が、動作中に連続して起こります。

そのため、競技動作では股関節だけでなく下肢全体を評価する場合があります。


38. 膝の位置と股関節

スクワットやランジなどで膝の軌道が変化すると、

股関節内外旋

骨盤運動

なども変化します。

しかし、

膝が内側に入る=グロインペインの原因

と一律に判断することはできません。


39. 腰椎・仙腸関節との鑑別

鼠径部の痛みでも、

腰椎

仙腸関節

から関連痛が起こることがあります。

2015年のスポーツ選手の鼠径部痛に関する合意文書でも、股関節・鼠径部周辺には多くの鑑別疾患があることが強調されています。


40. ヘルニアとの鑑別

鼠径部痛では、

鼠径ヘルニア

なども鑑別対象です。

特に、

咳

くしゃみ

腹圧上昇

で症状が変化する場合には、運動器だけで判断しないことが重要です。


41. 非筋骨格系の原因

さらに、

  • 尿路疾患
  • 婦人科疾患
  • 精巣・陰嚢疾患
  • 消化器疾患
  • 血管疾患

などでも鼠径部や骨盤周囲に痛みが出ることがあります。

そのため、

「スポーツをしている=スポーツ障害」

と決めつけるべきではありません。


42. 痛みの場所で分類する

痛みの場所・特徴主に考える領域
内転筋近位部内転筋関連
股関節前面腸腰筋・股関節関連
恥骨周囲恥骨関連
鼠径管周辺鼠径部関連
深い鼠径部痛股関節関連
腰・臀部から放散腰椎・神経関連

これはあくまで評価の入口であり、痛む場所だけで診断はできません。


43. MRIの位置づけ

MRIは、

筋肉

腱

骨髄

恥骨結合

股関節唇

などを評価するために有用です。

特にアスリートの恥骨・腹壁関連病変などではMRIが診断プロセスに役立つとされています。


44. X線の位置づけ

X線では、

骨形態

関節裂隙

骨性変化

などを評価できます。

FAIの骨形態評価でも重要になります。


45. 超音波検査

超音波では、

内転筋腱

腸腰筋

鼠径部

などの軟部組織を動的に評価できる場合があります。

ただし、超音波所見だけでは病因を確定できません。


46. 病院(整形外科)と整骨院・鍼灸院の役割

整形外科

整形外科では、

X線

MRI

超音波

などの画像評価に加えて、

薬物療法

注射

手術

など、医学的診断・治療を受けられます。

特に、

股関節内病変

骨傷害

ヘルニア

などが疑われる場合には重要です。


整骨院

柔道整復師は、

骨折

脱臼

打撲

捻挫

挫傷

などの外傷性損傷を扱う国家資格専門職です。

ただし、慢性的なスポーツ由来鼠径部痛については、健康保険の対象となる範囲と自費で行う運動器施術を明確に区別する必要があります。


47. 鍼灸治療の役割

鍼灸では、

疼痛

筋緊張

運動時の不快感

などに対する補助的介入を考えることができます。

ただし、

鍼灸だけで股関節唇損傷やヘルニアなどの構造的疾患を治療できる

という意味ではありません。


48. 円皮鍼の位置づけ

円皮鍼などの持続的刺激を利用する方法も、疼痛・筋緊張への補助的介入として用いることがあります。

一方で、

内転筋腱損傷

恥骨病変

股関節唇損傷

などを直接修復する治療とは区別する必要があります。


49. 徒手療法の位置づけ

徒手療法では、

  • 股関節周囲
  • 内転筋
  • 腸腰筋周辺
  • 大殿筋
  • 胸腰部
  • 骨盤周囲

などの可動性や筋緊張を評価する場合があります。

しかし、

「筋膜リリースをすればグロインペインが治る」

と断定することはできません。


50. EMS治療の位置づけ

EMSは電気刺激によって筋収縮を誘発する方法です。

グロインペインに使用する場合は、

筋力訓練の補助

などを目的とすることが考えられます。

ただし、

EMS=内転筋障害の治療

ではありません。

最終的には自分で筋肉を適切に収縮させ、競技動作へつなげる能力が重要です。


51. 「骨盤矯正」の位置づけ

骨盤の可動性や姿勢を評価すること自体は可能ですが、

「骨盤が歪んでいるから鼠径部が痛い」

「骨盤を矯正すればグロインペインが治る」

と一律に断定することには根拠上の限界があります。


52. 根本改善をどう考えるか

グロインペインにおける「根本改善」を、

痛い筋肉をほぐす

だけと考えるのは不十分です。

より実践的には、

症状の分類

↓

危険疾患の除外

↓

負荷要因の特定

↓

内転筋・腸腰筋の機能評価

↓

体幹・骨盤・股関節評価

↓

段階的筋力訓練

↓

競技動作の再獲得

という流れで考えます。


53. 負荷管理が重要な理由

例えば、

週2回のサッカー

から突然、

週5回の練習

に変更すれば、筋力が同じでも組織に加わる負荷は増加します。

また、

試合

練習

筋力トレーニング

自主トレ

をすべて合算して考える必要があります。


54. 急性期と慢性期を分ける

急性期

強い疼痛がある場合には、

高負荷トレーニング

ダッシュ

キック

などを一時的に調整します。

回復期

痛みが落ち着いたら、

筋力

可動性

協調性

を戻します。

復帰期

最後に、

速度

方向転換

キック

ジャンプ

など競技特異的負荷を戻します。


55. 「痛みゼロ」がすぐ競技復帰ではない

痛みが日常生活でなくても、

全力ダッシュ

切り返し

キック

で再発する場合があります。

そのため、

日常生活レベルの回復と、競技レベルの回復を分けて考える

ことが重要です。


56. 競技復帰の評価項目

例えば、

評価項目意味
内転筋力筋力回復
股関節屈曲力腸腰筋機能
内外旋可動域股関節機能
片脚スクワット下肢連鎖
ランジ荷重能力
ホップ反発・衝撃
ダッシュ高速負荷
切り返し多方向負荷
キック競技特異性

などを段階的に確認します。


57. 内転筋トレーニングの段階的進行

一例として、

レベル1

等尺性内転

レベル2

両脚での内転運動

レベル3

軽い片脚支持

レベル4

Copenhagen系運動

レベル5

高速内転動作

レベル6

切り返し・ジャンプ

という進行があります。

ただし、実際の負荷設定は症状によって異なります。


58. 腸腰筋トレーニング

腸腰筋では、

股関節屈曲

を中心とした運動を行います。

例えば、

  • マーチ
  • ヒップフレクション
  • ステップアップ
  • 抵抗下股関節屈曲

などがあります。


59. ただし「腸腰筋を鍛える=腰を反らす」ではない

腸腰筋運動では、

腰椎代償

が起こることがあります。

そのため、

腰を反って脚を上げる

のではなく、

骨盤・腰椎を安定させた上で股関節を動かす

ことが重要です。


60. 体幹・骨盤トレーニング

必要に応じて、

  • デッドバグ
  • サイドプランク
  • ブリッジ
  • バードドッグ
  • 片脚ブリッジ

などを組み合わせます。

目的は、

骨盤を安定させながら股関節を動かす能力

の獲得です。


61. 片脚支持の重要性

スポーツ動作では両脚で立つ時間より、

片脚で身体を支える時間

が非常に重要です。

走る、蹴る、方向転換するなどでは、

片脚支持

が繰り返されます。

したがって、

内転筋

外転筋

殿筋

体幹筋

が同時に働く必要があります。


62. グロインペイン再発予防

再発予防では、

痛みが消えた後のトレーニング

が重要です。

2009年のサッカー選手対象のクラスターランダム化試験では、内転筋など骨盤関連筋の強化・協調・コア安定性を含む予防プログラムが検討されましたが、主要アウトカムで統計的に有意な傷害予防効果は確認されませんでした。

これは、

「トレーニングをすれば必ず再発を防げる」

という単純な話ではないことを示します。


63. 予防ではトレーニング以外も重要

再発リスクには、

  • 過去の傷害
  • 競技レベル
  • 練習量
  • 急激な負荷増加
  • 筋力
  • 疲労
  • 競技特性

などが関係します。


64. 疲労と内転筋

疲労すると、

筋力

反応速度

運動協調性

などが変化する可能性があります。

そのため、

前半は痛くないが後半で痛む

という場合には、単純な可動域だけでなく疲労耐性も評価する価値があります。


65. スポーツ別の特徴

グロインペインは特に、

  • サッカー
  • ラグビー
  • アイスホッケー
  • バスケットボール
  • テニス
  • ダンス

など、

加速

減速

方向転換

キック

片脚支持

を繰り返すスポーツで問題になりやすい領域です。

2026年の大規模疫学研究でも、股関節・鼠径部傷害は多方向スポーツで重要なスポーツ障害として位置づけられています。


66. テニスとグロインペイン

テニスでは、

オープンスタンス

サイドステップ

急停止

などが頻繁に起こります。

そのため、内転筋・外転筋・体幹の協調が重要です。


67. ゴルフと鼠径部痛

ゴルフでも、

骨盤回旋

股関節回旋

体幹回旋

が繰り返されます。

ただし、ゴルフの鼠径部痛を内転筋だけで説明することはできません。

股関節、腰椎、骨盤の評価が必要です。


68. デスクワークとグロインペイン

デスクワーク自体は典型的なスポーツ性グロインペインの直接原因ではありません。

ただし長時間座位では、

股関節屈曲位

が長時間続くため、

股関節伸展

への移行が少なくなることがあります。

運動不足による筋力低下や、突然のスポーツ再開が重なる場合には、負荷条件が大きく変わります。


69. 「普段運動しない人が週末だけスポーツ」を注意する

平日はほとんど運動せず、

週末だけ、

激しいサッカー

フットサル

テニス

などを行う場合、

組織の準備量

と

実際の負荷

が一致しない可能性があります。


70. 産後・女性の鼠径部痛

女性では、

妊娠・出産

による骨盤周囲の変化や活動量変化などが存在します。

ただし、

産後の骨盤が歪んだからグロインペインが起こる

と一律に説明することはできません。

産後の股関節・鼠径部痛では、

骨盤底

腹壁

股関節

内転筋

などを総合的に評価します。


71. 産後の運動再開

産後に運動を再開する場合も、

歩行

↓

低負荷筋力運動

↓

片脚支持

↓

ジョギング

↓

方向転換

というように段階的に負荷を戻すことが重要です。


72. 「ストレッチだけ」で改善しない理由

筋肉が硬いことが痛みに関係している場合でも、

ストレッチ

だけで筋力や協調性まで改善するわけではありません。

グロインペインでは、

可動性

+

筋力

+

協調性

+

負荷耐性

を組み合わせて考える必要があります。


73. 筋膜リリースの位置づけ

筋膜リリースなどの徒手的介入によって、

筋緊張

関節可動性

主観的な張り

が変化することはあります。

しかし、

筋膜を緩めればグロインペインの原因が消える

とは言えません。


74. 鍼灸の位置づけ

鍼灸では、

痛みの調整

筋緊張の軽減

などを目的として補助的に用いることができます。

ただし、

FAI

関節唇損傷

ヘルニア

などの診断そのものの代わりにはなりません。


75. EMSの位置づけ

EMSは筋収縮を補助できます。

ただし、

EMS

↓

筋収縮

であり、

EMS

↓

鼠径部痛の原因消失

という直接的な因果関係ではありません。

EMSを使用する場合も、

自発的な筋力トレーニング

と組み合わせて考える必要があります。


76. 病院を優先すべき症状

鼠径部痛で、

  • 急激な強い痛み
  • 転倒・接触後の激痛
  • 歩けない
  • 体重をかけられない
  • 股関節の動きが著しく制限される
  • 発熱を伴う
  • 腫れが著しい
  • 精巣・陰嚢の激痛
  • 腹痛や嘔吐
  • 鼠径部に膨隆がある
  • 夜間も強い痛みが続く
  • 原因不明の体重減少

などがある場合には、整形外科や必要な専門診療科での医学的評価を優先します。


77. グロインペインの評価で重要な質問

問診では、

いつ発症したか

何をすると痛いか

キックで痛むか

走ると痛むか

方向転換で痛むか

脚を閉じると痛いか

脚を上げると痛いか

咳・くしゃみで痛むか

安静時に痛いか

以前にも同じ場所を痛めたか

などを確認します。


78. 再発歴は重要

過去にグロインペインを経験した選手では、再発リスクが問題になります。

競技復帰では、症状消失だけではなく、

内転筋力

競技特異的負荷

などを確認する必要があります。


79. 「画像検査が正常なら異常なし」とは限らない

筋・腱の機能障害や負荷耐性低下は、

画像だけでは完全には評価できない

場合があります。

逆に画像に異常があっても、それが現在の痛みの原因とは限りません。

したがって、

症状

身体所見

画像

動作

を統合して判断します。


80. オーダーメイド評価の考え方

グロインペインでは、患者ごとに、

痛みの部位

競技

発症経過

負荷量

内転筋力

腸腰筋機能

股関節可動性

体幹

骨盤

を組み合わせる必要があります。


81. 茨木市・高槻市で鼠径部痛にお悩みの方へ

茨木市・高槻市周辺で、

「サッカーやフットサル後に股の付け根が痛い」

「走ると内転筋が痛む」

「脚を閉じると鼠径部が痛い」

「キックで股関節の前側が痛い」

「股関節を上げると詰まり感がある」

「練習量を増やしてから鼠径部痛が出てきた」

といった症状がある場合、単純に「内転筋が硬い」「骨盤が歪んでいる」と考えるだけでは不十分です。

茨木あゆみ鍼灸整骨院では、運動器の評価として、

股関節

内転筋群

腸腰筋

殿筋群

体幹

骨盤

下肢の動作

などを総合的に確認し、必要に応じて徒手療法、鍼灸治療、運動療法、セルフケアなどを組み合わせるという考え方ができます。

ただし、グロインペインは鑑別範囲が広い症状です。

股関節内病変、鼠径ヘルニア、骨・関節疾患、神経疾患、腹部・泌尿器・婦人科疾患などが疑われる場合には、整形外科など適切な医療機関での診察を優先する必要があります。


82. よくある質問(FAQ)

Q1. グロインペイン症候群とは何ですか?

グロインペインは、鼠径部や恥骨周囲、股関節前方などに生じる痛みの総称で、一つの病名ではありません。アスリートでは内転筋関連、腸腰筋関連、鼠径部関連、恥骨関連、股関節関連などに分類して評価する考え方があります。

Q2. 鼠径部痛は内転筋が原因ですか?

内転筋はアスリートのグロインペインで重要な構造ですが、内転筋だけが原因とは限りません。腸腰筋、股関節、恥骨、鼠径部、腹壁、腰椎など複数の原因が存在するため、症状と身体診察を総合して判断する必要があります。

Q3. 腸腰筋が硬いと鼠径部が痛くなりますか?

腸腰筋周辺の疼痛や筋緊張は股関節前方痛に関係することがありますが、「腸腰筋が硬い=グロインペインの原因」と断定はできません。股関節内病変などでも同様の症状が生じるため、鑑別が必要です。

Q4. 内転筋を鍛えるとグロインペインは改善しますか?

長期間続く内転筋関連鼠径部痛のアスリートを対象としたランダム化比較試験では、内転筋を中心に骨盤へ作用する筋力・協調性を改善する積極的トレーニングが、活動的トレーニングを含まない比較群より良好な競技復帰結果を示しました。

ただし、すべてのグロインペインが内転筋由来ではないため、原因に応じた運動処方が必要です。

Q5. Copenhagen Adduction Exerciseは効果がありますか?

Copenhagen Adduction Exerciseは内転筋へ高い負荷を与える運動として研究されており、内転筋力向上を目的としたリハビリテーションで利用されています。2024年にも内転筋関連の鼠径部痛を有するサッカー選手を対象とした研究が報告されています。

ただし、痛みが強い時期にいきなり高負荷で実施するものではなく、状態に応じて負荷を調整する必要があります。

Q6. Adductor squeeze testで痛かったら内転筋障害ですか?

いいえ。Adductor squeeze testは鼠径部痛の評価に利用されますが、特定の組織を確定する検査ではありません。研究では感度が比較的高い一方、特定病変に対する特異度には限界があります。

Q7. 鼠径部痛に骨盤矯正は効果がありますか?

骨盤や股関節の可動性・運動パターンを評価することはできますが、「骨盤の歪みを矯正すればグロインペインが治る」という単純な因果関係は確立していません。内転筋、腸腰筋、股関節、体幹、競技負荷などを総合して考えることが重要です。

Q8. EMS治療で内転筋を鍛えれば治りますか?

EMSは筋収縮を補助する方法ですが、グロインペインの原因を直接治す治療として確立しているわけではありません。必要に応じて筋力訓練の補助に使用し、最終的には自分で筋を適切に使って競技動作へつなげることが重要です。

Q9. 鍼灸治療は鼠径部痛に使えますか?

疼痛や筋緊張に対する補助的介入として利用されることがあります。ただし、股関節唇損傷、FAI、骨傷害、ヘルニアなどの構造的疾患を鍼灸のみで診断・治療するものではありません。

Q10. 筋膜リリースでグロインペインは治りますか?

筋・筋膜への徒手的介入によって柔軟性や主観的な張り感が変化する可能性はありますが、グロインペインの原因そのものを必ず除去すると断定することはできません。負荷管理と運動療法を含めて考える必要があります。

Q11. 股関節のインピンジメントでも鼠径部痛は出ますか?

はい。大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)では、深い股関節屈曲やスクワット、切り返しなどで深い鼠径部痛が生じることがあります。

Q12. 鼠径部痛があるときにスポーツを完全に休むべきですか?

必ずしもそうとは限りません。重症度に応じて、症状を悪化させる競技負荷を一時的に減らしながら、許容可能な範囲で筋力・協調性を維持する方法が考えられます。ただし、急性外傷や重症疾患が疑われる場合は医療機関での評価が優先されます。

Q13. 痛みがなくなればすぐ試合に復帰できますか?

必ずしもそうではありません。競技復帰では、内転筋力、股関節機能、片脚動作、ジャンプ、加速、減速、方向転換、競技特異的動作などを段階的に確認することが重要です。競技復帰のコンセンサスでも、内転筋力の測定は復帰判断の一要素として推奨されています。

Q14. グロインペインは再発しますか?

再発することがあります。特に過去の鼠径部傷害歴は重要な要素です。スポーツ復帰後も筋力だけでなく、練習量、競技特異的負荷、疲労、動作などを含めた管理が必要です。

Q15. HAGOSとは何ですか?

HAGOSは、股関節・鼠径部症状を持つ身体活動の多い人を対象とした患者報告アウトカム指標です。痛み、症状、日常機能、スポーツ機能、身体活動、QOLという6領域を評価します。


83. まとめ|グロインペインは「内転筋をほぐす」だけでなく、股関節・腸腰筋・骨盤・体幹の協調運動を評価する

グロインペイン、いわゆる鼠径部痛は、

内転筋

腸腰筋

股関節

恥骨

腹壁

骨盤

腰椎

など、多くの構造が関係する複雑な症状です。

スポーツ医学では、内転筋関連、腸腰筋関連、鼠径部関連、恥骨関連、股関節関連などに分類して考える方法が広く用いられています。

特に内転筋関連のグロインペインでは、

内転筋力

遠心性筋力

骨盤の安定性

股関節可動性

競技動作

などを総合的に評価することが重要です。

また、内転筋と腸腰筋をそれぞれ単独の筋として捉えるのではなく、

「骨盤を安定させながら股関節を動かすための協調システム」

として見ることが重要です。

走る、蹴る、止まる、方向転換するというスポーツ動作では、

腸腰筋

内転筋

殿筋

外転筋

体幹筋

が異なるタイミングで働きます。

このため、

「鼠径部痛の根本改善=痛い筋肉をほぐすこと」

という考え方だけでは不十分です。

重要なのは、

適切な鑑別

↓

負荷管理

↓

筋力回復

↓

協調性の回復

↓

競技特異的負荷への再適応

という過程です。

特に長期間続く内転筋関連鼠径部痛については、内転筋や骨盤関連筋の筋力・協調性を改善する積極的なトレーニングが良好な競技復帰につながったランダム化比較試験があります。

一方で、グロインペインは複数の病態が重なることがあり、FAIなどの股関節疾患や鼠径部関連病変を同時に評価する必要があります。

そのため、

内転筋を柔らかくする

腸腰筋を緩める

骨盤を矯正する

EMSで筋肉を刺激する

といった単一の方法を「根本治療」と断定するのではなく、

「何が痛みを発生させ、何がその痛みを維持し、競技動作のどの部分で負荷が集中しているのか」

を分析することが重要です。

茨木市・高槻市でスポーツによる鼠径部痛、股関節前方痛、内転筋痛、キック時痛、ランニング時痛などに悩む場合も、局所だけではなく、股関節・骨盤・体幹・下肢の運動連鎖まで含めて考えることが、より合理的な評価につながります。


84. 本記事の根拠・調査事実・考察

調査した理由

今回のテーマでは、

「グロインペイン=内転筋の硬さ」

「腸腰筋が硬いから鼠径部痛になる」

「骨盤の歪みが根本原因」

といった単純化が起こりやすいため、以下を分けて確認しました。

  • グロインペインの国際的分類
  • 内転筋関連鼠径部痛
  • 腸腰筋関連疼痛
  • 股関節関連疼痛
  • 内転筋力と再発
  • 運動療法の有効性
  • Copenhagen Adduction Exercise
  • 画像検査の役割
  • 競技復帰基準

調査した事実

Doha agreementではアスリートの鼠径部痛を、内転筋関連、腸腰筋関連、鼠径部関連、恥骨関連、股関節関連などに分類する臨床的枠組みが提示されています。

スポーツ傷害の大規模疫学データでは、内転筋関連傷害が股関節・鼠径部傷害の主要カテゴリーとなっています。

長期間続く内転筋関連鼠径部痛では、筋力・協調性を改善する積極的トレーニングが、活動的トレーニングを含まない治療と比較して良好な競技復帰結果を示したRCTがあります。

2011年のRCTでは徒手療法・ストレッチ・ランニング復帰を組み合わせたマルチモーダルプログラムが競技復帰を早めましたが、完全復帰率には限界がありました。

Adductor squeeze testは内転筋関連痛を捉える一方、特定病変を確定するには不十分です。

アスリートの股関節・鼠径部痛では複数の病態が同時に存在する場合があり、臨床所見だけでは不十分な場合にMRIなどの画像評価が診断精度向上に役立つことがあります。

本記事における考察

以上を総合すると、グロインペインは、

「一つの筋肉の硬さ」ではなく、複数の解剖学的構造とスポーツ動作・負荷の相互作用から評価すべき症状群

と考えるのが妥当です。

特に内転筋と腸腰筋は、股関節の異なる運動方向に働く一方、実際の競技動作では骨盤・体幹を介して協調的に機能します。

したがって、筋力・可動性・協調性・負荷耐性を分けて評価し、最終的には競技特異的な動作まで再構築することが重要です。


85. 情報の信頼性

グロインペインの分類・診断概念:高

Doha agreementなど国際的なコンセンサスを基礎としています。

内転筋関連グロインペインと運動療法:高~中

RCTや長期的研究が存在し、運動療法が重要な位置を占めます。ただし、研究対象やプロトコルが異なるため、すべての患者に同じ結果が保証されるわけではありません。

内転筋力と競技復帰:中~高

スポーツ復帰コンセンサスでは内転筋力測定が重視されていますが、競技復帰は筋力のみで決定するものではありません。

Copenhagen Adduction Exercise:中

内転筋力向上を目的とした研究がありますが、特定の運動だけが全患者で最良と確定したわけではありません。

腸腰筋・骨盤・キネティックチェーンの因果関係:中~限定的

解剖学的・生体力学的には合理的な説明が可能ですが、「特定の姿勢や筋の硬さがグロインペインの根本原因である」と一律に断定できるほどの臨床的証拠はありません。

徒手療法・鍼灸・円皮鍼・EMS:限定的

疼痛や筋機能への補助的介入として検討できますが、内転筋関連グロインペインの主要な保存療法として確立している段階的運動療法と同一視することはできません。

総合的な情報信頼性:高~中

グロインペインの分類、鑑別、運動療法、スポーツ復帰については、国際コンセンサス、RCT、スポーツ医学研究を中心に構成しています。一方、「骨盤矯正」「筋膜リリース」「EMS」「鍼灸」などの特定施術については、疾患への直接的な治癒効果を過大評価しないよう記述しています。

主な参考資料

  • Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes, British Journal of Sports Medicine.
  • Epidemiology of hip and groin injuries in sport: systematic review and meta-analysis.
  • Effectiveness of active physical training as treatment for long-standing adductor-related groin pain in athletes: randomised trial.
  • Manual or exercise therapy for long-standing adductor-related groin pain: randomised controlled clinical trial.
  • Athletic groin pain: prospective anatomical diagnosis combining clinical and MRI findings.
  • Evaluation of Athletes with Hip Pain.
  • A clinician’s guide to femoroacetabular impingement in athletes.
  • HAGOS: development and validation of the Copenhagen Hip and Groin Outcome Score.
 

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